建設工事の品質を高め、誰もが安心して暮らせるように。
【プロフィール】
山田 恵一(やまだけいいち)
耐震建築家、一級建築士、構造設計一級建築士
さくら構造株式会社 札幌本社第二設計室 室長
北海道十勝郡浦幌町出身
大学卒業後、高速道路の維持管理や設計を行う会社に就職。サービスエリアや料金所などの設計に携わる。
その後、28歳でさくら構造に入所。
耐震建築家として、マンションや商業ビルなど40棟、立体駐車場、ゴミ処理場、肥料倉庫など特殊建築物 約10棟、合計50棟の耐震設計を手がける。
34歳で札幌本社第二設計室 室長に就任。
部下14名を率いて年間 約100棟の耐震設計を手がけている。
力学的センスの高さや知識の豊富さから「モデル化の山田」や「歩く黄色本」等、多数の異名を持つ。
構造設計は、建築の分野の中で「人の命を守る」という役割を担っている
Q:構造設計とはどんな仕事なのでしょうか?建築設計に置ける構造設計の役割を教えてください。
建築の設計分野としては、大きく分けて3つあります。
建物の外観デザインや間取りなどを決める「意匠設計」電気照明設備や空調給排水設備などの設計を行う「設備設計」そして私達が行っている「構造設計」があります。
構造設計という仕事は、地震、風、雪などの自然現象による力が建物に作用しても、建物が壊れないように、建物の基礎や柱、梁などの骨組みの大きさ、配置を建築基準法という法律にしたがって決めて、建物を建てるための設計図を作ります。
また、その設計図通りに工事がされていることも、現場に出向いて確認しています。
構造設計は、建築の分野の中で「人の命を守る」という役割を担っています。
自分の家を建てるときに、構造や耐震性を意識する人は少ない
Q:一般の方に「構造設計」が認知されていないのはなぜでしょうか?
多くの人は自分の家を建てるときに、間取り、外壁やクロスの色、床の材質などのデザインを考えます。
ですが、構造や耐震性を意識する人は、本当に少ないのではないかと思います。
限られた予算のなかで家を建てるわけですから、「この工務店なら大丈夫だろう」と構造や耐震性について任せてしまう人がほとんどだと思います。
また、お施主様は意匠設計事務所や工務店に依頼し、そこから構造設計事務所に仕事が来るという流れなので、構造設計者は直接お施主様と話す機会がありません。
更に、例えばTVで意匠設計者は「匠」として取り上げられ、設計で工夫した点を見せていたりと表に出る機会が多いのに比べ、構造設計者はなかなかメディアで取り上げられる機会がないことが認知の低さに繋がっていると思います。
有名建築でも、どんな建物でも見えない部分に必ず構造設計者がいて、建物に関わっています。
構造設計者は、家を建てる上で人の命を守るという重要な役割を担っていると私は思います。
阪神淡路大震災でも壁式構造の被害は殆どなかった
Q:様々な構造種別がありますが、なぜ壁式構造を多く採用しているのでしょうか。
壁式構造というのは鉄筋コンクリートの壁で構成された建物なのですが、非常に地震に強いことに加え、構造部材のコストが少ないのが採用される理由です。
建築基準法で考えているよりも大きな地震と言われている阪神淡路大震災であっても壁式構造の被害は殆どなかったという被害調査報告があります。
TSUYOKU基準では、想定する地震に対して建物の変形がどれぐらいになるかを計算し、そこから損傷度予測をしていますが、壁式構造はあらゆる構造種別の中で、地震時に最も変形が小さく損傷が少ない建物と言っていいと思います。
TSUYOKUは不要な部材を減らし、耐震上必要な部材は増やすように設計している
Q:TSUYOKUの高耐震化と一般的な高耐震化のちがいを教えてください。
高耐震は昔からありましたが、構造躯体のコストが高くなるため、予算が多いプロジェクト以外ではなかなか広まっていないように感じています。
TSUYOKUは不要な部材は減らし、耐震上必要な部材は増やすように設計をします。
本来は無駄な部分を減らしていかないといけないのですが、建物の安全性を担保しようとすると、どうしても少しずつ余裕をみて設計することがあり、必要以上に無駄な部分、贅肉のような部分がでてきてしまうことがあります。
TSUYOKUではそれを細かく計算していくことで削ぎ落していきます。
時間に限りがあるので、一般的には難しいのですが、TSUYOKUではそれをしていく。
そして、目標値(予算)に対して減額できたお金の分を、耐震上必要な部材に増やすように設計をします。
この「引き算」「足し算」を同時に行うことで、構造躯体のコストを上げずに高耐震化を目指している点が、TSUYOKUと一般的な高耐震化の大きな違いだと思います。
過去の手抜き工事や耐震偽装は、いつも構造躯体で行われてきた
Q:TSUYOKUでは、工事監理において耐震建築家が実際にどんなことが行われているのでしょうか。
TSUYOKUでは、建設現場で構造設計図通りに工事が行われているのかを建築構造の専門家が現場で確認します。もし、図面通りに施工されていない場合は、図面通りとなるように現場に是正してもらいます。
過去に起きた建築の社会問題を考えると、手抜き工事や耐震偽装は、いつも構造躯体で行われてきました。
これは、構造分野が、専門性が高く、だれでも、見た目や感覚で構造的な異変に気づきにくいという特徴があるためです。
最近では、構造計算をおこなう建物であれば、構造計算や構造図に対して厳しく審査されますので、過去に起きたような耐震偽装などの不正は起きづらくなっています。
ですが、建設現場では、職人不足、現場監督不足、現場の構造知識不足などで、構造設計図通りに施工されているかを確認できる人が現場にいないということが実はとても多いです。
もっというと、手抜き工事や施工ミスがあっても、だれも不正に気が付かないということが今も起きてしまいます。
そのようなことが起きないように、現場に対して品質管理を指導していきます。
安心して暮らしてもらうために、不安を少しでも取り除くことが、私のミッション
Q:耐震建築家が考える、本当に安心して暮らせる建物を教えてください。
自然を扱っている以上、100%安心安全な建物はないと私は思います。
安心して暮らせる建物は、人によっても考えが違いますよね。
でも、もし不安だなと思う人がいたら、その不安を少しでも取り除くことが、私のミッションだと思っています。
まずは、現状の一番問題が起きやすい建設現場での品質管理指導を頑張りたいと思っています。
将来を担う子どもたちに構造設計をやりたいと思ってもらえるような活動をしたい
Q:耐震建築家として成し遂げたいことを教えてください。
構造設計という仕事は、人の命を守るという責任を背負いながらも、たくさんの人と関わり、コミュニケーションを重ねながら、施主の希望や夢をかなえるという、とても楽しくやりがいのある仕事だと私は感じています。
この仕事の魅力を多くの人に伝えて、特に将来を担う子どもたちに構造設計をやりたいと思ってもらえるような活動ができたらいいなと思っています。
なかなかゴールの見えない夢ですが。