TSUYOKU STORY 01さくら構造株式会社田中真一

田中 真一(たなかしんいち)氏

日本に住むすべての人があたりまえに「地震に強い暮らしを選択できる」未来のために

【プロフィール】
田中 真一(たなかしんいち)
耐震建築家、一級建築士、構造設計一級建築士
さくら構造株式会社 代表取締役
北海道札幌市出身

耐震設計を専門にする建築設計事務所にて延べ400棟の設計を担当した後、
構造設計者の社会的地位向上を目指し2006年「さくら構造株式会社」を創業。
耐震設計の年間設計棟数は700棟を超え「さくら構造」を国内有数の高耐震設計企業へと成長させる。
また、大手企業をクライアントにもち、耐震設計アドバイザーとして多くの実績をもつ。
関東大震災から100年目の2023年9月には、地震に強い暮らしを作る「TSUYOKU」をリリース。
夢は「高耐震技術で日本の構造設計を世界に誇れる仕事にすること。」

日本に住む誰もが、地震に強い暮らしを選択できるように

田中 真一(たなかしんいち)氏

Q:TSUYOKUとは?

私たち構造設計者が自ら定めた、独自の耐震基準です。
いまの建築基準法は「倒壊しないこと」のみで、被災後も住み続けられるような耐震性は考慮されていません。
構造部材を増やせば高耐震化はできますが、それではコストがかさみ、潤沢な資金がある富裕層でない限りなかなか手が届かないのが現実です。
耐震建築家が設計監修を行い、選ばれた設計者が適材適所で部材を組み上げ、無駄を省くことで、低価格でも高耐震を目指しています。
TSUYOKUは日本に住む誰もが富裕層でなくても、あたりまえに「地震に強い暮らしが選択できること」これを実現するために作られた耐震基準です。

構造設計者は、地震で建物が壊れる前提で構造設計をしている

田中 真一(たなかしんいち)氏

Q:TSUYOKUを始めようとしたきっかけ

私は、構造設計者が反省しなければいけないんじゃないかなと思っていることがあって、それはなにかというと、今、新築の建物を構造設計するときに、わたしたち構造設計者は、建物が地震で壊れる前提で構造設計しているということを一般のみなさんには全く説明してこなかったということです。
つまり、私たち構造設計者が、どういう設計をして、どういう性能なのかを、発注者はもちろん、施主にも、社会にも説明責任を果たしてこなかったということだと思います。
ちょっと話がそれるのですが、この事実を世の中に伝えると、会社のみんなに宣言したときに社員から「本当にこんなことを言って大丈夫なのか」という意見がかなり多くありました。
これはどういう心理かというと、おそらく怖いんだと思います。
自分たちが説明してこなかったことを世間に知らせることにもなりますし、もしかしたら、誰かに批判されるかもしれないという気持ちなんだと思います。
私も理解できます。ただ、誰かが行動しなければ、耐震性もあがらないし構造設計者も変わりません。
いま日本では、ここ数十年の間に何度も震度7という大きな地震がきています。
そして今後も同じように巨大地震が高い確率で発生すると言われています。
このような状況で、私たち構造設計者ができることは、法律を守るだけではなく、日本に住むすべての人があたりまえに「地震に強い暮らしを選択できること」こそが私たち構造設計者が目指すべき未来だと考え、このTSUYOKUを始めました。

耐震建築家による「大破防止」を目指した独自の耐震基準

田中 真一(たなかしんいち)氏

Q:TSUYOKUの特徴とは?

特徴として、大きく4つあります。

  1. 耐震性能目標(クライテリア)が建築基準法の「倒壊防止」を一段引き上げ「大破防止」を目指している点。
  2. 地震が来たときに、建物がどのくらい壊れるか(損傷度)を高度な解析を行って予測している点。
  3. 一級建築士の上位資格である構造一級建築士が、適材適所で部材を組み上げ無駄を省いた構造計算を行うことで低価格、高耐震を実現しています。
  4. 設計品質、現場品質を担保するため、属人的にならない一定品質が確保できるガイドラインを設けています。

耐震基準について、客観的で正しい情報を社会に対して説明していく

田中 真一(たなかしんいち)氏

Q:TSUYOKUの現状の課題は?

まだ始まったばかりですので、課題しかないということだと思います。
特に、今の耐震基準について客観的で正しい情報が、社会に対して説明しきれているとは言えない状況を改善していかなければいけない。
それと、これからTSUYOKUの採用事例を増やしながら、さらに使いやすいものに進化させていく必要もある。また、解析方法が「応答変位」を求めるという、普段やらない難易度の高い解析方法を採用していますので、そういうことができる構造設計者をこれから育成していくことも課題になってくると思っています。

そのためにはどうしたらいいかっていうと、やっぱり私たちだけでは広げていけないかなと思います。日本のみんなの意識を変えるという流れだから、それってすごいエネルギーが必要です。

ほかの構造設計者をはじめ、建築業界の方で共感してもらえる人に一緒に取り組んでもらい、広めていきたいです。その結果、日本中、ゆくゆくは世界へ広まって行くと思います。

日本の耐震技術を世界へ広めたい

田中 真一(たなかしんいち)氏

Q:TSUYOKUの今後目指すところや展望は?

もし、従来と同じコストで高耐震化できるとしたら、法令ギリギリの耐震性で建物を建てる人は日本からいなくなると思いますし、そういう未来が実現できるように、活動していきます。
そして、TSUYOKUは日本の耐震基準ブランドであることを意識してデザインしてきました。それは、いつか世界に向け、日本の耐震技術のすばらしさを広げていきたい、というみんなの願いが込められています。
日本の構造設計者が、誇りをもって働ける未来をつくることに、TSUYOKUが貢献できたら、とてもうれしいです。

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